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東京地方裁判所 昭和29年(行)83号 判決

原告 市川勇

被告 墨田税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告の求める裁判

被告が、原告に対し、昭和二十七年五月十五日附で、原告の昭和二十六年度分所得税に関する所得金額を二百五十万円と更正した処分のうち、五十七万八千円を起える部分はこれを取消すとの判決。

第二、被告の求める裁判

主文第一項同旨の判決。

第三、原告の主張

一、原告は主として茶の卸販売業を営んでいる者である。

二、原告は、昭和二十六年度の所得税について、昭和二十七年二月二十八日、所得金額を五十七万八千円として、被告に対し確定申告をしたところ、被告は同年五月十五日附をもつて所得金額を二百五十万円と更正しし、同月十八日頃原告に通知した。

三、原告は右更正につき、同年六月十六日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年八月二十七日右請求を棄却し、同月三十日原告にその旨通知した。

四、そこで原告は、同年九月十三日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、東京国税局長は昭和二十九年五月二十五日右請求を棄却する旨決定し、同月二十六日原告にその旨通知した。

五、しかしながら被告の更正は原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

六、よつて右更正のうち違法な部分の取消を求める。

第四、被告の答弁及び主張

一、答弁

原告の主張第一ないし第四項は認めるが、第五項は争う。

二、主張

原告は、茶の卸売り並びに茶、海苔、茶罐及びきゆうすの小売りを業とするものであるが、原告の全売上金額の九〇%弱に当る金額が茶の卸売による収入であるので、原告の所得金額の算出に当つては原告の有利に総売上金額に茶卸しの標準所得率(小売りの所得率は、これより高率)を適用する方法により算定した。

(一)  売上金額    二八、五〇〇、九九七円

(イ) 茶の卸売額  二五、二三〇、〇一八円(備付帳簿による)

(ロ) 〃の小売額   二、三一六、九八一円(  〃    )

(ハ) 海苔の〃      七八四、七二五円(  〃    )

(ニ) 茶罐の〃       九三、二三四円

右金額は原告記載の仕入金額六五、二六四円に、備付帳簿により算出された差益率三〇%を適用して求めた。

(ホ) きゆうす小売額 二一、九三九円

右金額は(ニ)における同様の方法により仕入金類一四、八三一円に差益率三二・四%を適用して算出した。

(ヘ) 雑収入(空箱の売上) 五四、一〇〇円(備付帳簿による)

(二)  標準所得率 一〇、一%

東京国税局管内の茶卸販売による所得率

(三)  算出所得額 二、八七八、六〇〇円

売上金額二八、五〇〇、九九七円に所得率一〇、一%を乗じて算出した。

(四)  特別経費     六七、五二〇円

(イ) 雇人費     四二、〇〇〇円(備付帳簿による)

(ロ) 減価償却費 二五、五二〇円

店舖、倉庫、自転車三台、リヤカー、什器の償却額

(五)  所得金額 二、八一一、〇〇〇円

前記の算出所得金額二、八七八、六〇〇円より前記四、の特別経費六七、五二〇円を控除し、それより得た金額のうち八〇円を切捨てた。

よつて、原告の所得金額は被告のなした更正処分額二、五〇〇、〇〇〇円を上廻るので、何ら違法の点はない。

第五、被告の主張に対する原告の答弁

被告の主張事実中原告の営業の点は認めるがその余はすべて争う。標準所得率が被告主張のとおりであることは認めるが右率により原告の所得を算定することは不当である。

第六、証拠〈省略〉

理由

一、原告の主張第一ないし第四項の各事実は当事者間に争がない。

二、そこで被告の更正処分が違法かどうかについて判断する。

先ず原告の昭和二十六年度の所得について検討する。

(一)  売上金額について

(1)  証人原三郎の証言及び右証言により成立を認める乙第三号証の一、二、同号証の四ないし七によると原告の昭和二十六年度における茶の卸売額が二千五百二十三万十八円、茶の小売額が二百三十一万六千九百八十一円、海苔の卸売及び小売の合計額が七十八万四千七百二十五円であることが認められ、右認定に反する甲第一、二号証の記載及び証人大橋一郎の証言は措信しない。

(2)  証人原三郎の証言及び右証言により成立を認める乙第三号証の三並びに本件口頭弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第三号証のの八によると昭和二十六年度における茶罐の仕入額が六万五千二百六十四円であること及び茶罐の小売の差益率が三十パーセントであることが認められ、更に右証言によると右差益率に基いて茶罐の売上を推計することは相当であると認められる。よつて右仕入額及び差益率に基いて昭和二十六年度の茶罐の売上額を算出すると九万三千二百三十四円であると推認される。

(3)  証人原三郎の証言及び前記第三号証の三第三号証の八によると昭和二十六年度のきゆうすの仕入額が一万四千八百三十一円、きゆうすの小売の差益率が三十二・四パーセントであることが認められ、また右証言によると右差益率によりきゆうすの小売額を推計することは相当であると認められる。よつて右仕入額及び差益率に基き昭和二十六年度のきゆうすの小売額を算出すると二万一千九百三十九円と推認される。

(4)  証人原三郎の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によると昭和二十六年度に雑収入として空箱の売上が五万四千百円あることが認められる。

(5)  そうすると原告の昭和二十六年度の売上金額は右の合計二千八百五十万九百九十七円であると認められる。

(二)  所得率について

昭和二十六年度における東京国税局管内の茶の卸売による所得率が一〇・一パーセントであることは当事者間に争がない。ところで一般に小売の所得率は卸売による所得率よりも高率であると考えられるから、茶の小売の所得率は前記卸売の所得率よりも高率であると推認するのが相当であるし、また海苔の卸売の所得率も前記茶の卸売の所得率を下らないと認めるのが相当である。また茶罐及びきゆうすの小売の所得率は、前記差益率の点から考えて前記茶の卸売の所得率を下らないと認めるのが相当である。そして前記認定にかゝる昭和二十六年度の原告の売上額及び証人原三郎同大橋一郎の各証言を綜合すると原告の営業は東京国税局管内の通常の茶の卸売業者と同程度の経営状態であつたと推認することができる。そうすると前記茶の卸売の所得率により原告の所得を算定しても原告の所得を過大に認定するおそれはないといわなければならない。

(三)  そこで前記売上額に右所得率を乗じて算出すると、特別経費控除前の原告の所得は二百八十七万八千六百円を下らないと認めるのが相当である。

(四)  証人原三郎の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によると昭和二十六年度の原告の営業の特別経費は雇人費四万二千円、減額償却費二万五千五百二十円、計六万七千五百二十円と認められる。

(五)  そうすると原告の昭和二十六年度の所得金額は前記二百八十七万八千六百円から右特別経費六万七千五百二十円を控除した二百八十一万一千八十円を下らないと認めるのが相当である。証人大橋一郎の証言及び甲第一、第二号証によるも右所得推定を左右するに足らず、他にも右認定をさまたげるに足る証拠はない。よつて右所得金額の範囲内で原告の昭和二十六年度の所得金額を二百五十万円としてなされた被告の本件更正処分は違法でないといわなければならない。

三、そうすると原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)

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